事例 ~成年後見人であった者が特別縁故者として相続財産分与申立~

特別縁故者とは

相続人以外で、被相続人と生計を同じくしていた、或いは、被相続人の療養看護に努めたなど、特別の縁故関係があった者のこと

事例
今回は親族の成年後見人(後見人報酬受領済)が、本人の死後に特別縁故者としても財産の一部を受領出来た事例の紹介です。

まずは相続人がいない相続の一般知識から説明します。
法定相続人が存在せず、遺言もない場合、被相続人の遺産は国庫に帰属するものとなります。
国庫に帰属するとは、すなわちすべての遺産が国のものとなってしまうんです。一般の人々には信じられないでしょうが、こういう法律が存在するんです。

だから入籍せずに事実上の夫婦として生活していた人、いわゆる内縁関係にあった人や被相続人と生活を共にしたり面倒をみてきた人等であっても、法定相続人に該当しない限りは、法律上、被相続人の財産を請求することはできません。
被相続人が遺言を遺して自らの意思を明確にされているというケースはごく稀にしかありません。

しかし、救済措置としての法律も用意されています。
被相続人と生活を共にしたり、被相続人の面倒をみていた人がいる場合は「特別縁故者の相続財産分与請求」が認められます。
「特別縁故者」の条件としては民法958条の3第1項で以下の3つが定められています。
①被相続人と生計を同じくしていた
 (例:内縁の妻など)
②被相続人の療養看護に努めた者
 (例:献身的に世話をした者など)
③その他被相続人と特別の縁故があった者
 (例:生前、親密に交流していた者など)

どのような場合に「特別縁故者」として認められるのかは細かな規定がなく、過去の判例等を見てもそのケースによりさまざまで、家庭裁判所の判断による部分が大きいです。
私の見聞きするところでは、家庭裁判所は「シブチン」でありほとんど認めてくれないという印象です。
ただ、被相続人が入所していた施設を運営する社会福祉法人が特別縁故者として認められ、全財産を相続したという判例もあります。

当事務所で扱った案件で、困難と思われていましたが少しは認めてもらえた、という事例を紹介します。
親族の成年後見人が特別縁故者として認められたケースです。
生前には被相続人から後見人報酬を受け取っていたのですが、特別縁故者として一部の財産を受領することができました。
被相続人は生まれつき脳性麻痺で障害を持っていました。
申立人であるAさんは被相続人の従兄弟です。
Aさんの両親は婚姻前の被相続人の母親と同居していたり、また、被相続人出生後は日常的に家を行き来したり、被相続人の母親のパート勤務中は被相続人の看護をAさんの母親とAさんが行うなど以前から親密な関係を築いていました。
その後、被相続人の父親は亡くなり、その約2年後には被相続人の母親が入退院を繰り返すようになったため、Aさんは被相続人の母親からの依頼で被相続人の成年後見人に就任しました。

Aさんは、被相続人が利用するショートステイや入所施設に関する各種手続き・送迎・日用品差し入れ・保護者会の参加・外出の付き添いなどを被相続人の母親に代わって続けてきました。また、被相続人の母親についても、入通院の付き添いや見舞い・日用品の差し入れなど親身になって療養看護に努めました。
被相続人の母親が亡くなった際にはAさんの弟が喪主となり、Aさんがそれを補助して葬儀を執り行い、自宅整理や永代供養の手続きも行いました。
その翌年には被相続人も亡くなりましたが、その際にも同様にAさんとAさんの弟が一連の手続きを行い、その後もAさん宅に被相続人及び被相続人の母親の遺影を置いて供え物をしたり、定期的に墓参りをしたり、法要を執り行ったりしました。

これらの事情から、Aさんは被相続人の特別縁故者に対する相続財産分与の申立てを行い、結果、特別縁故者として財産の一部を分与されました。

裁判所の判断をまとめると以下の通りです。
Aさんの両親と被相続人の母親はAさんの幼少期から頻繁な交流があったとみることはできるが、殊にAさんと被相続人の関係に限ってみれば少なくともAさんが成年後見人に就任するまでは一般的な親戚付き合いの範囲を超えるようなものとまではみることはできない。また、Aさんが成年後見人就任後に行ったことには成年後見人の業務としての側面があり、Aさんが既に成年後見人の報酬として相応に高額な金額を受け取っていることに照らせば、民法958条の3第1項にいう「被相続人と生計を同じくしていた者」「被相続人の療養看護に努めた者」に該当するということはできない。

しかし、Aさんの被相続人に対する世話が非常に細やかで、且つ被相続人の母親の療養看護をも親身になって行ったこと、被相続人の死後もAさん及びその親族で葬儀や法要を実施していることなどを併せて考慮すれば、「被相続人と生計を同じくしていた者」ないし「被相続人の療養看護に努めた者」に準じる程度に密接な関係があったとして、Aさんは特別縁故者に当たるものと認定された。
そして、財産分与の程度については、相続財産の全額の分与を希望するものの残余財産のほんの一部のみが相当との結果となった。

<裁判所の審判を見ての感想>
特別縁故者に当たるものと認定されたことにビックリ。これは難しいと思っていたので、申立人であるAさんにもあまり期待しないでおいた方がいいですよ、と話をしていました。
ただ、特別縁故者に認定されたが、分与額の小さいことでやはり「シブチン」であることを再認識しました。
審判書を見ての第一印象はそんなところなんですが、裁判所の事実の把握、それに対する検討はなかなかよくされているなあと感心させられるものでした。
まず、「特別縁故者に該当するとはいえない」といったんは否定しておきながら、「特別縁故者に準じる程度に密接な関係があったとして特別縁故者にあたる」と認める判断がなされました。
苦肉の策としてこのような表現を使うのだろうか?
私見なんですが、事実関係を細かく把握したうえで申立人のAさんとの面談の結果、Aさんの心象によりこのような結論に達したのではなかろうかと思ってしまいます。
私はAさんとは仕事上で以前に接したことがあるので、ある程度、Aさんという人を存じているのですが、従兄弟の成年後見人になることを依頼され引き受けたり、身の回りの世話を親身になってできるとても人間的によくできた女性なんです。
そのようなAさんの人間性を数時間の面談で担当者は感じ取ってこのような結論に至ったのではなかろうかと思ってしまうのです。
ひとこと
なかなか絶妙な審判であったと思う反面、わからない部分も多いのが裁判所。このように、特別縁故者に対する相続財産分与請求は裁判所による裁量が大きいので、一事例として紹介させていただきましたのでみなさんのお役に立てれば幸いです。詳しいことは、お気軽にお問合せください。