事例 ~遺言と遺贈の登記~

遺贈とは

法定相続人以外の方へ、遺言で財産の分与を行うことを遺贈といいます。そのまま相続人に財産が引き継がれる「相続」とは異なり、遺言によって遺言者の財産の全部あるいは一部を贈与します。

遺言書の検認とは
公正証書による遺言を除く遺言書の保管者や、発見した相続人は、遺言者の死後、速やかにその遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認」を請求しなければなりません。ただし、検認とは、相続人にその存在や内容を明確にして、偽造・変造を防止するために行われるものであって、遺言の有効・無効を判断するものではありません

事例
依頼者Aさんの妹であるBさんが亡くなったのはずいぶん前のことだが、このたび、遺産相続手続きを行うこととなった。
通常の相続手続きであれば、両親・長男は他界し、配偶者・子どももいないBさんの遺産は、兄であるAさんに引き継がれる。しかし、Bさんは自筆による遺言書を残していた。遺言書には、Bさんの不動産を甥にあたるCさん・Dさんに2分の1ずつ分け与えるという内容が記されていた。
不動産登記法下においては、「遺贈を原因とする所有権の移転の登記を申請する場合、申請情報と併せて提供すべき登記原因証明情報は、登記名義人の死亡を証する情報のほかに遺言書が必要である」と考えられるため(登記研究736 平21・6 P173~「カウンター相談202」)、遺贈の登記にはその遺言書が必要であった。ところが、肝心の遺言書の原本が見つからないということで、そのままでは遺贈を原因とする所有権移転の登記ができない状況であった。 遺言書の原本はどうしても見つからなかった。しかし、遺言書がないままでは遺言者であるBさんの想いが無駄になってしまう。当方は、方法を探り、遺言書検認調書の謄本を入手しようと考えた。検認を受けてから長い期間が過ぎていたので入手できないかと思っていたが、運よく入手することができた。それを遺贈の登記申請の際に提出することによって登記原因証明情報として認められ、無事に登記を完了させることができた。
ひとこと
遺言の方法は細かく分けると7種類もあるのですが、それぞれに決まりごとがあり、定められた形式に則っていなかったりすると、せっかくの遺言も無効となってしまう可能性があります。
この場合は、自筆による遺言書でしかも原本を紛失しているという状況ではありましたが、検認を受けていたうえ、長い年月をさかのぼって謄本をとることができたので、無事に遺言の内容通りに手続きを終えることができました。
自筆証書遺言は手間や費用が掛からず便利と思われるかもしれませんが、作成の際の決まりごとが多いうえに、検認を受ける必要もあり、その手続きには手間もかかります。公正証書遺言は、原本が公証人によって保管されるため、このケースのように紛失することはありませんし、当然偽造される心配もありません。
相続人に余分な手間をかけさせたり、無駄なトラブルになったりすることを避けるためにも、公正証書遺言をお勧めします。