事例 ~公示送達による判決~

公示送達とは

相手方を知ることができない場合や、相手方の住所・居所がわからない人、相手方が海外に住んでいてその文書の交付の証明が取れないとき等に、法的に送達したものとする手続きのことを言います。

事例
Bさんは、姪にあたるAさんの介護を受けながら一人で生活していたが、呉服購入に5000万円程度の借金をしたり、他人に万単位で金銭を施すなど、金銭管理ができなくなり、自らの生活費は借金で補うという生活になっていた。その後、Bさんは統合失調症で入院し病状的にその入院は長期化する予定となった。Aさんは、自己破産手続きや入院費その他の金銭管理を進めるために、自ら成年後見開始の申立てを行い、Bさんの成年後見人となって後見事務にあたっていた。
ところが、Aさんの娘であるCさんから、Aさんが医療費等を滞納していることなどを理由として、後見人解任の申立てがあった。その時点で口座に入金されたはずの年金は残っておらず、残高は1000円に満たなかったそうだ。裁判所から呼び出しをしたが、Aさんは連絡もなく出頭しなかった。その後Aさんは後見人を解任された。そこで、新後見人として当方が選任され、後見事務にあたることとなった。 上記のような経緯であったため、一般的な後見事務以外に、Aさんによる使途不明金についての調査等を行い、裁判所へ報告する必要があった。400万円程度が使途不明金としてBさんの口座から出金されていたことが分かったため、Aさんに説明を求めて連絡をとるも、書留郵便も不在のため返送されてしまい、全く連絡がとれなかった。娘であるCさんに尋ねても、Aさんの行方は分からないとのことであった。そして、裁判所書記官より、訴えを起こして債務名義を取得するよう指示を受けBさんが原告、後見人である当方が原告法定代理人となって損害賠償請求事件として訴状を提出することになった。
しかし、Aさんには郵便物も届かず、居所が知れないため、本人へは『公示送達』という方法で送達された。
公示送達の申立てには、Aさんの現住所(とされる地)へ赴き、ガス・電気の使用状況や郵便物の受け取り状況等の調査・建物や部屋の概観等の写真撮影・近隣等からの聴取等を行って報告書を提出する必要があり、非常に手間を要した。
というのも、公示送達とは、裁判所の掲示板に送達内容の趣旨等が一定期間掲示されることによって相手に送達したとするもので、この場合、Aさんが訴状を目にすることはまずないと考えられ、欠席裁判になることは必至である。つまり、公示送達はいわば「最後の手段」となるので、簡単には認められないからである。
こうして、被告であるAさんに、裁判所から公示送達による呼び出しがなされたが、口頭弁論期日にAさんは出頭することなく、請求内容がすべて認められ、400万円程度の使途不明金を支払うようにとの判決が下された。
ひとこと
このように、親族後見人による不正は、程度の大小はあれど後を絶ちません。そうした理由から、最近は、親族ではなく弁護士や司法書士といった専門職が後見人として選任される傾向にあります。 この事例では、当方が新後見人として選任された後、被後見人の財産を守るために、煩雑な手続きを経て使途不明金を返還してもらうという判決を得ることができました。成年後見人の役割やあり方を見直すためにも、こういった手続きを取って判決を得たことには大きな意義があると思います。